Reliability Engineering中級編:FMEA×CBMで保全戦略を設計する—「全部測る」から「賢く測る」へ

はじめに:CBMを始めた施設が次にぶつかる壁
CBMを始めると、次の壁に当たります。
「200台ある設備のうち、どれを重点的にモニタリングすべきか分からない」
「設備ごとに何を測るべきか、判断基準が曖昧」
「やっているのに、想定外の故障が起きる」
これは“測定の努力不足”ではなく、保全戦略の“設計不足”です。
そこで有効なのが、FMEA(故障モード影響分析)を使って、CBMを“設計する”やり方です。FMEAは品質リスクマネジメントの文脈でも一般的な手法の一つとして位置付けられています。
結論(先に3行で)
- CBMは「測ること」ではなく「測る対象を設計すること」が成果を左右する
- FMEAを使えば、監視すべき故障モードと測定項目を論理的に絞り込める
- 「全部測る」から「リスクの高いところだけ賢く測る」へ転換することで、保全の質と説明力が同時に向上する
なぜ「全部測る」は失敗するのか
・測定項目が増えすぎて現場負担が爆発する
・データが多すぎて重要変化が埋もれる
・設備ごとの“壊れ方”の違いを無視してしまう
・結果として、見落とした故障モードから突発停止が起きる
要するに「どう壊れるか」を体系的に整理していないことが原因です。
FMEAの基礎:3つの問いで「壊れ方」を洗い出す
FMEAはコンポーネントごとに、次を整理します。
- どう壊れるか(故障モード)
- 壊れたら何が起きるか(影響)
- どれくらい危ないか(優先度)
RPNと、いま増えている「AP(Action Priority)」の考え方
従来のFMEAでは、S(影響度)×O(発生)×D(検知)でRPNを出し、優先順位に使う方法がよく使われてきました。
一方、近年のAIAG/VDA系のFMEAでは、RPNだけに依存せず、Action Priority(AP)で「高・中・低」の優先度を決める考え方が明確です。
ポイントは次の2つです。
・RPNの絶対値に“世界共通の正解”はない
・優先順位付けは「組織が再現性ある形で回る」ことが最優先(RPNでもAPでもよいが、ルールを統一する)
このブログでは、現場導入しやすいように「RPNは相対順位の目安」「優先度はAPやリスクマトリクスも併用可」という立て付けで説明します。
FMEA×CBM:実践ワークショップの進め方
参加者は最低4者。
エンジニアリング(仕様と故障メカ)/保全(現場知)/製造(運転条件と影響)/QA(GMP影響)
この4者が同じテーブルで議論することが、精度と定着を決めます。
ステップ1:対象設備は最初は1–2台に絞る
最初の題材はAHUかチラーがやりやすい(共通性が高く、故障モードが多い)。
ステップ2:設備をコンポーネントに分解する
例:AHUならファン、モーター、ベアリング、コイル、バルブ、センサー、筐体など。
ステップ3:故障モードごとに「検知できる指標」を結び付ける
ここが“FMEA×CBM”の核です。
「この測定は、どの故障モードを早期に拾うための測定か?」を明確にします。
ステップ4:優先度(RPNやAP)に基づき“測る強さ”を変える
・最優先(AP高、または相対的にRPN高):複数手段+頻度高+エスカレーション明確
・標準(中):月次など標準頻度でトレンド管理
・基本(低):既存アラームや定期点検で十分、追加測定は最小化
注意:RPNの閾値(例:200以上等)は“規格”ではありません。自社のリスク許容度とリソースで決めます。大事なのは絶対値ではなく相対順位です。
ステップ5:CBM実施計画(SOP化)に落とす
対象、測定項目、頻度(通常/注意時)、判断基準、イエロー時/レッド時のアクション、担当、記録方法。
GMP環境では「文書化して回る」こと自体が価値になります。
形骸化を防ぐ:FMEAは“更新されるべき設計図”
FMEAを一度作って終わりにすると形骸化します。更新トリガーを決めます。
・突発故障が起きた
・設備変更(Change Control)をした
・年次レビュー(最低年1回)
年次レビューは2–3時間で十分です。
「予測と実績のギャップ」を埋める場にすると、翌年から精度が上がります。
製薬施設特有の視点
・影響度(S)はGMP影響を明示的に分けて評価する(品質逸脱の重みは別格)
・“触れられない領域(再バリデーション負荷が高い)”と“最適化しやすい領域”を区別し、後者から成功事例を作る
・査察では「なぜその保全方法なのか」を問われる。FMEA×CBMは、科学的・体系的な根拠として説明しやすい。
まとめ:「賢く測る」が保全を変える
入門編は「まず測る」。中級編は「測る理由を設計する」。
FMEA×CBMの本質は、限られたリソースを最大インパクトに集中させることです。
全部測らない。重要な故障モードを見極めて、そこだけは確実に拾う。
今日から始められる3つのアクション
- 過去3年の故障履歴を“故障モード”単位で整理する
- AHUまたはチラーを1台選び、半日×2回のFMEAワークショップを入れる
- 既存CBMの測定項目を見直し、「どの故障モードを拾う測定か」を明文化する
著者について
ダリウシ ロスタミ | イーテック合同会社 代表
製薬・食品業界で35年のオペレーショナルエンジニアリング経験を持つ。
主な経験:
- エンジニアリング部門のリーダーとして、新規施設立ち上げプロジェクトを統括
- バリデーション(IQ/OQ/PQ)、コミッショニングの管理体制構築と技術サポート
- Reliability Engineeringプログラムの導入と運用体制の確立
- エネルギー最適化戦略の策定とクロスファンクショナルチームのマネジメント
- GMP環境での変更管理・逸脱管理システムの構築
専門分野: エネルギー最適化、GMPコンプライアンス、バリデーション、Reliability Engineering、設備投資計画、工場レイアウト設計、プロセス改善、組織マネジメント
現在は東京を拠点に、製薬施設を中心とした包括的なエンジニアリングコンサルティングを提供。「技術と人をつなぐ」ことをモットーに、持続可能な改善と組織づくりを支援している。
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